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SHONAN TAX OFFICE NO.289   
 




 

 
平成25年11月1日
 
婚外子差別の違憲判断
 

 今年も,あと2か月。もう年末調整の用紙をお渡しする時期になりました。年末調整のための関係資料(生命保険料控除証明書や国民年金保険料控除証明書など加入しているとこの時期に送られてくるはずです。)が必要ですので,保管しておいてください。

 さて,今年は例年になく台風の発生が多いような気がするのですが,実際はどうでしょうか。

 10月16日に関東地方などを襲い,伊豆大島に記録的な豪雨をもたらした台風26号は,大きな被害をもたらし生活を破壊しました。

 その後,26日にも台風27号の大雨で土砂災害などへの注意が喚起され,全国的に強い風が吹き荒れたのは記憶に新しいと思います。立て続けの台風で,何となく今年は台風が多いような気がして,これも地球温暖化の影響ではないかと思ってしまいます。でも,実際には気象庁の統計では,次のようになっています。もちろん今年(2013年)の分については,まだ確定していませんが,対比を見る上では十分だと思います。 

 今年の台風の発生数は,ここ10年では多い方になっていますが,最近増加傾向になったわけではなく,過去には,もっと多く発生した年もありました。また,日本に接近した台風の回数も上陸したものもそれ程多いというわけではありませんが,被害が大きかったということでしょうか。

 

  台風発生数  接近数 上陸数
2013   30 ?   14 ?  2 ?
2012   25   17   2
2011   21   9   3
2010   14   7   2
2009   22   8   1
2008   22   9   0
2007   24   12   3
2006   23   10   2
2005   23   12   3
2004   29   19  10
 
1994   36   15   3
1967   39   13   3
 

接近数とは,台風が上陸したかどうかにかかわらず、台風の中心が日本に接近した台風の数で,上陸数とは台風の中心が北海道、本州、四国、九州の海岸線に達した台風の数を示しています。

 

11月の税務・総務予定
 

(税務)
所得税の予定納税額の減額申請      15日(金)まで
*所得税の予定納税額の納付(第2期分)  12月2日(月)まで
*個人事業税の納付(第2期分)        通常月末
*税を考える週間 11日(月)〜17日(日)


(総務他)
*年末調整関係資料の配付
*冬期賞与の算定

 

 

  今月は,最高裁の違憲判決の話題から。今年(2013)9月4日に最高裁は,民法(900条四号ただし書)が定めた法的な結婚をしないでできた子供(これを非嫡出子といいます)の相続分が嫡出子の2分の1とする差別規定は,法の下の平等を定めた憲法(14条)に違反するとした判断(決定)を示しました。非嫡出子という言葉は差別用語だとされ一般には婚外子と表示されていることが多いので以後それによります。

 違憲とするに至った理由として,「昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘、嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化、更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば、家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らか」として我々を取り巻く環境の変化を大きな理由としています。そして,「法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、・・認識の変化に伴い、・・父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立され」た,とされ違憲の判断をしました。

 我が国では,婚外子の割合は諸外国に比べて極端に少なく,年間2万人程度です。これは,この規定があるから少ないのかはっきりしませんが,諸外国でも廃止に伴って婚外子割合が増加していることから幾分は増加するでしょうが,日本の生活環境ではそれ程増えるとは思われません。

 国際的な環境の変化と国際機関の差別撤回の勧告がこの結果に少なからず影響したことは確かで,特に昭和40年前半以降,多くの国でこの差別を廃止する立法がされました。

 

   諸外国の婚外子割合 2010年





 
  地域 婚外子割合%
 フランス  54.97
 英 国  46.89
 米 国  40.84
 ドイツ  33.26
 日 本   2.15





 
 坂本「最高裁が婚外子差別規定に違憲判決」時の法令1938号
 45頁他を参考にしました。

 

また,我が国の婚外子の出生率は,大正後半は7%近くありましたが,最近は増加傾向にあるとはいえ2%と少なくなっています。

 

  年次   出生率
1960年 昭和35年  1.22%
1975年 昭和50年  0.8 %
1990年 平成 2年  1.07%
2000年 平成12年  1.63%
2011年 平成23年  2.22%
 

 この差別を容認した理由は,不倫関係でできた子への差別なのでしょうが,分かり難くいえば“法律婚の尊重”です。しかし明治民法では,夫が妻の同意なく認知できることや,“庶子の男子”が“嫡出の女子”に優先することから,“法律婚の尊重”というよりは,むしろ男性血統重視の家が,子どの犠牲の下に,男性と正妻の利害が一致した規定であったのかも知れません。

 この婚外子差別を判断した最高裁の判断は,平成7年大法廷(合憲10名・違憲5名)から始まって,

  平成12年小法廷(合憲4名・違憲1名), 

   平成15年小法廷(合憲3名・違憲2名),

  平成15年小法廷(合憲3名・違憲2名),

  平成16年小法廷(合憲3名・違憲2名),

  平成21年小法廷(合憲3名・違憲1名)へ。

 そして今回の平成25年9月4日最高裁判所大法廷は,審理に加わった14名(1名は法務省時代に関係者であったため不参加)の全員が,婚外子の法定相続分を婚内子の2分の1と定めた民法900条4号ただし書は,法の下の平等を定めた憲法14条に違反し無効であるとの判断をして,そのうち3名の裁判官の補足意見がついています。

 このように,平成7年の最高裁大法廷の合憲判断以後,数々の最高裁小法廷での違憲とする反対意見を経て,もはや立法での対処は期待薄な状態から司法の判断をせざるを得なかったのでしょう。ただし違憲の判断で,今まで違憲だと知らないで遺産分割をしていた問題はどうするのか(遡及するのかどうか)という問題が生じるため,最高裁もこの点は,違憲判決を躊躇させる原因となったかも知れません。

  平成7年の判決でも,もし違憲と判断するとしても判断の効力は遡及しないとして反対意見に付記されていました。

 平成25年判決でも,この違憲判断は、「相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない」としました。

  この平成25年の違憲判決の事案の亡くなった日(相続開始)は,平成13年7月ですので,それ以後は違憲状態になっていたと思われますが,審判や遺産分割の合意で確定してるものは遡って再度争うことはできないとしました。しかし確定というのは実際には簡単な話ではなく,新たな財産が出てきたり当初の合意時にない事由が有れば当然遡及の問題が生じます。

  また,平成25年最高裁の違憲判決の相続は,平成13年7月ですが,その前の違憲判決(平成21年)の相続開始日は,平成12年6月30日ですので,平成12年7月からの1年間は合憲・違憲をさまようことになります。早く国会で立法しておけばこんな問題は生じなかったのでしょうが,違憲判断という特殊な結果のため,当然に少なからず問題の発生を許してしまいました。

 
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平成25年9月5日以後の取扱い
 

 この判決を受けて,税務上の対応が迫られ,国税庁は次のようなQ&Aを早速公表 しました。概略を掲載します。

 

問1 平成25年9月4日以前(違憲決定日以前)に、嫡出に関する規定を適用して相続税額を計算し、既に相続税の申告をしています。嫡出に関する規定を適用しない(婚外子の相続分を1/2しない)で相続税額を計算すると、その額が減少することになりますが、更正の請求(税額を減少)の事由になりますか。なお、相続税の計算において、嫡出に関する規定を適用しないものとする以外に変更はありません。
 

 相続税の計算において、嫡出に関する規定がないものとして嫡出に関する規定を適用した相続分に基づいて相続税額を計算することによって、相続税額が減額する場合でも、嫡出に関する規定を適用した相続分に基づいて相続税額の計算を行っていたことのみでは、更正の請求の事由にはなり ません。

 

問2 違憲決定日以前に相続税額を計算し未分割とした相続税の申告をしました。今回、遺産分割の協議が確定したので違憲決定日の9月4日以後に実際の財産の取得に応じて申告する場合に、嫡出に関する規定を適用しないで相続税額を計算することになりますか。
 

 その通りです。また仮に遺産分割の日 がこの9月4日以前であっても同じです。

 

問3 相続開始の日は、平成25年9月4日以前ですが、同年9月5日以後に相続税の申告をする場合はどうなりますか。
 

 9月5日以後に、申告するときは,嫡出に関する規定がない(1/2しない)ものとして相続税の計算をしてください。

 
 

編集後記

 もう11月です。東北では今月中には初雪があるかも知れません。暑かった夏は秋を通り越して一遍に冬に向かっています。このためか今年の紅葉は気が付かないうちに落ち葉で埋もれています。今月号に年末調整の資料をお送りします。昨年に事務をさせて頂いた皆様にはその時の内容をプリントアウトしてお送りしますので,変更部分を書き直してご提出ください。


               
編集発行 株式会社プランニングファイブ