平成11年6月1日
海外勤務
毎年のことですが、今年も国税庁は昨年(平成10年分)所得税の高額納税者を公表しました。昨年の確定申告で所得税額が1千万円を超えた高額納税者として、不況の影響で前年度より1万人少ない7万人が公示されました。予想通り土地の売却による土地長者は年々減少し、平成10年は昨年の半分、ピーク時の1割以下に落ち込みました。
また、昨年まで長者番付の常連の音楽プロデューサーの小室哲哉さんは、米国に住所を移したため、平成10年度の番付から姿を消したと報道されていました(日経99.5.17夕刊)。
なお、小室さんは前年度の高額納税者番付では4位で、12億円の所得税を支払っていました。所得では、25億円程度だと思われます。この所得は外国に住居を移すと、原則として、住んでいる外国で課税され日本では課税されません。
今月は、この仕組みを説明します。
海外勤務などで、長期間にわたって日本を離れると、非居住者となります。
“非居住者”なんて分かり難い言葉ですが、外国で生活する人のことです。
そして“非居住者”になると、所得税の課税所得の範囲が違ってきます。
“非居住者”の反対が、“居住者”で、私たちの様に、日本国内に住所を有している人のことをいいます。
“居住者”の場合は、日本国内・国外で得たすべての所得について課税されます。一方“非居住者”になりますと、日本国内で行う勤務による給与所得や、日本国内にある不動産から生じる不動産所得など、日本国内に源泉がある所得(これを“国内源泉所得”といいます。)だけに課税されることになります。
6月の税務・総務予定
(税務)
*所得税の予定納税額の通知 15日
*個人住民税の納付 通常月末
(総務)
*給与計算で個人住民税の特別徴収税額を変更する。
*夏期賞与の決定・準備
|
年の中途で海外勤務などのために出国して、居住者から非居住者となった人の場合、居住者であった期間内に生じたすべての所得に対して課税されます。
その人が給与所得者の場合には、一般的には出国の時に年末調整を行うことになりますが、給与所得以外の所得を有する人については、原則として、出国の時までに、その年の1月1日から出国の日までの期間の所得について確定申告と納税を行う必要があります。非居住者となった後は、国内源泉所得だけ課税されることになり外国において支給を受ける給与所得には日本の所得税は課税されません。
年の中途で海外勤務を経て帰国するなど非居住者から居住者となった人の場合、非居住者であった期間内に生じた国内源泉所得と居住者であった期間内に生じたすべての所得に対して課税されます。
“非居住者”の納税を確保するため、“非居住者”に対して国内源泉所得の支払をする時には、源泉徴収をしなければならない場合がかなりあります。なんだかややこしいですが、“非居住者”に対して報酬などの支払いをする場合には、源泉徴収をして、その残額を“非居住者”に支払わなければならない場合があるということです。
この場合の源泉徴収する税率は、原則として20%(土地等の譲渡による対価の場合には10%、利子所得などの場合には15%)と定められています。
また、支払を受ける人が居住する国によっては、租税条約により所得税が免除されたり、軽減される場合がありますので、ますます複雑になります。
それでは、理解し易い様に“非居住者”となった小室哲哉さんの場合の国内の課税について考えてみます。もちろん本当はどうか知りませんのであくまでも想像です。
小室さんが、日本の会社の役員をやっているとして、今後、米国の支店で勤務するとします。この場合には、日本に帰ってきて国内において勤務したことによって得た給料についてだけ課税されます。したがって、国内勤務がない場合はそれが国内で留守家族に支払われても日本においては課税されないことになります。
留守宅に支払う給与は、国内の勤務に基づいたものではありませんので、源泉徴収は不要になります。
また、国内の住まいを社宅として日本の会社に貸して不動産の賃貸料を得て、20%の税率で源泉課税された残額を貰っていたとします。これも国内源泉所得ですから課税され、確定申告で清算することになります。
もちろん、日本国内で行うミュージシャンとしての活動も日本で課税されます。
なお、小室さんが米国で昨年同様の所得を得て、標準控除以外の控除がないとしますと、米国の所得税(連邦税)は9億円となり、日本にいるときより3億円税金が安くなります。
(IRC1(C)の独身者の税率は、25万ドルを超えると、$79,772, plus 39.6% of
the excess over $250,000 で計算されます。)
ただし、日本の所得税も従来3千万円を超えると50%の税率だったのですが、平成11年から1,800万円を超えると37%となりましたので、控除項目の相違はありますが、所得税(連邦所得税)ベースでは、余り変わらなくなりましたので念のため・・・・・
通年“非居住者”の場合には通常、源泉徴収だけで確定申告をする必要はありませんが、日本国内にある不動産を譲渡した場合や、不動産を貸し付けている場合で基礎控除を超える場合には確定申告が必要になります。小室さんの場合には、新聞報道では、「日本での申告が無く番付から消えた。」とされていましたので、それらの所得は無く、国内からは、金融機関の利息、配当、給与(国内の勤務に係るもの)や一時払いの養老保険ぐらいしか無かったのでしょう。
ちょっと具体的に考えてみましょう。転勤などで長期間の予定で出国した年の税金はどうなるでしょうか。
例えば、12月20日に出国したとします。この場合には、原則出国時までに所得税の確定申告が必要になります。ただし、“納税管理人”を定めれば通常と同じに翌年3月15日までとなります。この様な場合には、国内の身近な人に“納税管理人”になって貰ってください。
Question:出国時までの年分の住民税はかかるでしょうか?
答えは、かかりません。この場合、本年12月20日に出国してしまいますので、来年1月1日には日本に住所がないことになり来年分の住民税は課税されません。ただし、本年分の住民税は、もう確定していますので、払わなければなりません。
男女雇用機会均等法
平成9年6月に成立、公布された、いわゆる「男女雇用機会均等法」は、本年4月より施行されました。
主な改正点は、女性労働者に対する差別の禁止やセクシャル・ハラスメント防止への配慮義務などがあります。
これまで事業主の努力義務となっていた募集・採用、配置・昇進について女性に対する差別が禁止され、また、教育訓練について差別が禁止される対象の範囲に限定がなくなります。 今回の均等法改正に伴い、「一方の性のみを示す職種名」での募集が原則として禁止されました。
一例を挙げますと
男性正社員 → 正社員
営業職男性のみ →営業職
経理事務(男性40歳まで女性25歳まで)→ 経理事務(40歳まで)
カメラマン → 撮影スタッフ
スチュワーデス → 客室乗務員、フライトアテンダント
看護婦 → 看護婦、看護士
になります。
編集後記
女性労働者に対する差別を禁じること等を盛り込んだ男女雇用機会均等法が施行されましたが、女性の側も女性であることに甘えることなく働かなければいけないと言うことでもあると思います。
うっとうしい梅雨の季節となりました。せめて気分は爽快に過ごしたいものです。
編集発行 株式会社プランニングファイブ
|
Last Updated:6/JUN/1999