P5 NEWS      SHONAN TAX OFFICE NO.216
 



 
 
平成19年9月1日
 
愛犬に遺産
 
  外出も控えたくなるような猛暑・酷暑の8月も終わり、もう9月・長月です。秋風が恋しい。
 

 今月の事務所通信のスタートは、表題の「愛犬に遺産」の話です。でもこの話は、日本でのことではありません。「米の富豪女性、愛犬に遺産14億円・孫より多額 」という新聞記事からの紹介です(日経8/30夕刊)。

 

 「ホテル女王」と言われた富豪女性の遺産は、1200万ドル(約14億円)。この遺産の大半を愛犬のために使うようにと、信託基金にして彼女の実の弟に残したそうです。彼女の4人いるお孫さんのうち2人には、"彼らの知っている理由により("reasons that are known to them," )"一銭(セント)も渡しません。ちなみに、この大金持ちとなり、幸せな老後が期待される愛犬のホワイトマルチーズの名前は、「トラブル(Trouble)」です。

http://www.cnn.com/2007/US/law/08/31/helmsley.dog.ap/index.html

 日本でこれをやろうとしたらどうでしょうか。自分が亡くなった後に残された愛犬ポチの行く末を案じて、誰か信頼できる人に財産を残して、その資金を使ってポチの保護、飼育を頼むという方法が、一般的です。世話を託された人は、相続税が課税されます。しかしこれですと、信頼できる人に頼むとはいっても、死後、ポチの世話をチャントしてくれるかどうか心配です。

 

 これが、米国の場合のように信託という方法ですと、保護・飼育を確実に実行してもらえそうです。

 

 “信託”は、例えば、自分の持っている財産を、他の人(受託者と言います)に管理・運営をしてもらうという契約を結んで行います。そしてそこから得られた利益は、自分が受け取るか、別の指定した人に受け取れるように決めておきます。この利益を受ける人を受益者と言います。

 

 信託では、その財産は、託した他の人に移ります。不動産ですとその人名義に登記されます。しかし託された受託者は、契約に基づいて、受益者のためにしっかり管理等をしなければなりません。そこで、この段階では、所有権は移っても原則として譲渡課税はおきません。

 
 
 財産を預かった受託者は、その信託財産を自分の財産とは、別個に管理します。受託者名義になった財産も、結局は自分の物ではありませんので、固有の財産より、もっと気をつけて管理するのは、当然です。
 

 従来、この信託を使おうとしても、公益のもの以外で受益者の定めていない信託は認められていませんでした。これを“目的信託”といいます。確かにポチは受益者(犬)かも知れませんが、民法では、人とか法人と一緒にする訳にはいきませんので、ポチのための信託は、目的信託に属する事になります。

 

 ところが昨年(平成18年)にできた新信託法では、この目的信託が可能になりました。この法律は、今年9月30日から施行されます。但しこの部分等は1年遅れて施行されますので、来年と言うことになります。ゆっくりポチの将来を考えてください。

 

 それでは、次のような信託を考えてみます。自分が死んだら、駐車場に使っている駅前の土地を信託財産にして、その収益でポチの保護・飼育費用をする信託をこれを専門とする法人と設定します。そしてポチが亡くなれば、その土地は孫にいくようにしたいと思っています。新信託法では、可能です。それでは、税金はどうなるでしょうか。

 

 そうですね。自分が亡くなったら、駅前の土地は、最終的には孫にいきますので、孫に相続税をかけたらどうでしょうか。でも、孫はかなりの期間その土地から何も利益を受けません。色々と考えられますが、平成19年の改正で、次のように整理されました。

 まず、通常の場合、死亡を原因として信託が開始されますと、法人に対する遺贈となって、亡くなった人が、法人に不動産を譲渡したとみなして、譲渡所得として課税され、相続財産ではなくなります。もちろん、その分は相続税から控除されます。これを使えば、相続税を節税することができるかも知れません。そこで税法は考えました。この受益者の定めのない信託である目的信託が終了した場合、最長でも20年が限度(信託法259条)ですが、終了後の受益者が親族であるような場合には、相続税の節税に利用される虞れがありますので、その法人を個人とみなして相続税を課税することにしました(相続税法9条の4)。法人では、相続税分は控除されます。信託進行中は、ポチのお食事代とか予防注射の費用などの経費を控除して法人税が課税されます。
 その後信託が終了しますと、孫が受益者となります。その時点で、孫に贈与税が課税されます。この事例のように信託財産が不動産より預金などの金銭債権の方が良いかも知れません。
 
 もう一つ、この新しい信託を利用するのではないかと思われるものに、「受益者連続型信託」というのがあります。これは、今年から可能です。
 

 例えば、自分の死後、現在の住まいは後妻の方に譲りたい。しかし後妻さんが亡くなると、後妻さんの連れ子が相続します。でも最終的にはこの住まいは、先妻との実子に譲りたいと考えたとします。

 以前にもこのようなことを考えた人がいました。自分(甲)の死亡後は、甲が所有する不動産を妻乙に遺贈し、乙の死亡後は、甲の兄弟である丙らに承継させるとの自筆証書遺言したものでした(最高裁昭和58年3月18日判決)。この遺言をどう考えたらいいのか迷います。最高裁は次の4つの考え方を示しました。
 

@ 乙への単純遺贈(丙らへの後継ぎ遺贈は、単なる希望)

 

A 乙への負担付贈与(丙への所有権移転を債務として負担)

 

B 丙らへの停止条件付遺贈(乙の死亡を条件)

 

C 丙らへの不確定期限付き遺贈(乙の死亡が不確定)

 

 高裁は@でしたが、最高裁はCを採りました。Cの税金の計算は、甲の死亡による相続税は丙が負担することになります。乙の使用権は控除できるでしょうが、そう簡単にはいきません。

 

 新しい信託法では、明文で受益者を次から次へと連続させる信託を認めました。ただし死者に対して将来にわたる財産承継の方法を無制限に認めることは財産法秩序の観点から望ましくないという意見もありましたので,信託設定時から30年を経過したときまでとする期限が定められました(信託法91条)。

 

 前記の設例の場合を信託を使って実現することができます。問題は課税ですが、19年度改正で、納得できるかどうかは別にして、次のように整理されました。

 まず、自分の死後に後妻の方がこの部分の相続税を負担します。これは従来通りです。そして後妻さんの死亡時には、相続人でない亡夫の実子が相続税を負担します。亡夫が、後妻さんの遺言を一緒に書いたようなものです。なお、遺留分やどうやって評価するかの問題は残ります。(首藤「新信託法と贈与税・相続税」他を参考にしました。)
 







 

9月の税務・総務予定
(税務)
*国民健康保険税第3期納付    通常月末
(総務他)
*防災訓練
*秋のレクレーションの計画

 
 
省略
 
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法人税の誤った認識
 
 今月も、東京国税局税務相談室の「誤りやすい事例集」からです。余り興味はないかと思いますが、今月は、法人税です。なお、原文とは少し変えております。またここに掲載した(正しくは)は、一般的な回答です。
 

未払寄附金の計算

1(誤り)未払の寄附金も含めて、寄附金の損金算入限度額の計算を行う。
(正しくは)寄附金は、支出した事業年度で損金算入限度額の計算を行います。例えば、手形で近くの神社に寄附をしたとしますと、これも手形が決済されるまでは、寄附金とはなりません。これは、寄附は一方的な支払いという性格を持つためです。
 

未払交際費等の計算

2(誤り)未払の交際費は、実際に支出のあった事業年度で限度計算を行う。
(正しくは)交際費は、実際に接待等の事実があった事業年度で損金不算入額の計算を行ないます。ですから仮払いであっても当期中の計算に含めます。
 

事業年度順と異なった順序で申告した場合の青色欠損金の繰越控除の適用

3(誤り)連続して確定申告書を提出していることが要件となっているので、青色欠損金の繰越控除は適用できない。
(正しくは)確定申告書の提出時に、欠損金の生じた事業年度以後すべての事業年度の申告書があればよく、必ずしも順序正しく申告書が提出されていることは要件とはなっていません。
 

電話加入権の償却

4(誤り)電話加入権は無形固定資産であり、少額であれば損金経理を要件に一時に損金の額に算入できる。
(正しくは)今はほとんど聞きませんが、電話を設置すると1回線7万円ぐらいの施設設置負担金とか工事負担金とか新規加入料と言われたものを払っていました。これを電話加入権といいいます。電話加入権は非減価償却資産ですので、償却することはできませんし、少額な減価償却資産の取得価額の損金算入の規定の適用も無いとされています。現在資産計上されている電話加入権については、問題になっています。
 
省略
 

 編集後記

 やっと朝晩、涼しくなってきました。内閣改造後1週間で農相の辞任。本人は、やりたくなかったようなので、希望が叶ったのかも知れません。また、領収証をコピーして何重にも計上していた政治資金収支報告書の提出。ハッキリ言って悪質で、子供だまし。政治家の世界に世間の常識は通用しないのでしょうか。
 

        編集発行 株式会社プランニングファイブ